名古屋高等裁判所 昭和51年(ネ)203号 判決 1977年5月30日
控訴人
高山秀宗
右訴訟代理人
木村豊
被控訴人
橋本正春破産管財人
社本英昭
被控訴人補助参加人
株式会社 加商
右代表者
加藤幾喜
右訴訟代理人
波多野弘
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
<証拠>によると、犬山入鹿池観光開発株式会社が入鹿ゴルフコースおよびその付属設備を所有し、ゴルフ場経営をしていること、犬山カンツリー倶楽部は右ゴルフ場を利用し、ゴルフを通じて会員の体位と品格の向上を図ることなどを目的とする団体であること、同倶楽部の正会員は右会社の株式を取得し(個人会員は一株、法人会員は二株以上。)、同倶楽部に入会金を納入し、同倶楽部理事会の承認を得たものであること、会員は右ゴルフ場を利用できる権利を有するが、同倶楽部に所定の負担金その他の諸費用を支払う義務を負担すること、同倶楽部には、正会員をもつて構成された会員総会があり、正会員は一人一個の議決権を有し、右総会において選任された理事をもつて理事会を構成すること、正会員は会員権を譲渡することができること、会員権の譲渡は株式の譲渡と入会金預り証の譲渡を伴うことが認められ、そして正会員の名義書換登録手続が当審での控訴人の追加主張のとおりであることは当事者間に争いがない。
以上の事実によれば、会員権の売買契約の場合においては、売主としては、右契約に基づき前記の譲渡証書を作成し、これとともに株券と入会金預り証を買主に交付する義務があるというべきである。
二橋本正春が昭和四九年一二月一八日午前一〇時名古屋地方裁判所一宮支部で破産宣告決定を受け、被控訴人が破産管財人に就任したこと、橋本が原判決添付目録記載の株券と入会金預り証を所有する犬山カンツリー倶楽部の正会員であつたが、昭和四二年一〇月一三日右株券と入会金預り証を盗難に遭い、昭和四九年五月二八日犬山簡易裁判所に対し右株券につき公示催告の申立てをし、除権判決期日が昭和五〇年二月一九日と指定されたこと、しかし右破産宣言決定があつたため、被控訴人が除権判決を受けたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人がその後破産管財人として、右除権判決に基づき犬山入鹿池観光開発株式会社から本件株券の再発行を受けるともに、犬山カンツリー倶楽部から本件入会金預り証の再交付を受けたことが認められる。
三ところで控訴人は、昭和四八年二月二三日橋本との間に橋本から会員権を買い受ける契約をなし、同日その代金を支払つたが、橋本から株券と入会金預り証の交付を受けないうちに、橋本が破産宣告を受けたので、被控訴人破産管財人に対し右契約の履行を求める旨主張しているが、もし右事実が真実だとしても双務契約の一方の債務のみが未履行である場合に当るから、片務契約におけると同じく、控訴人の有する債権は破産債権となり、その評価額につき、破産手続によつて他の破産債権者と同列の立場でその配当を受け得べきこととなる理である。控訴人はしよせん右売買契約に基づき被控訴人破産管財人に直接本件株券と入会金預り証の引渡請求をなしうべきものでないことは明らかである。
さらに附言すれば、本件会員権の譲渡については、指名債権の譲渡に準じて、会員たる譲渡人が前記倶楽部又は前記会社に対し確定日附のある証書をもつて通知し、又は右倶楽部等が同証書をもつて承諾しない限り、譲受人は、右会社と右倶楽部以外の第三者に対しそれをもつて対抗できないものと解すべきである。そして控訴人破産管財人は右譲渡につき正当な利害関係のある第三者にあたるというべきであるところ、本件では右手続が履践されたことを認める資料はない(なお株式については株券の交付がないので当事者間でも譲渡の効力は生じていない。)。
この点につき、控訴人は、右対抗要件を要しない取引慣行があり、会員権を控訴人に売り渡す契約の履行をなすべき橋本の債務を、被控訴人がその地位上当然に承継し、その履行の責に任ずべきものとして、本訴請求をなすと主張しているが、さような慣習を認めるにたりる資料はない。したがつて、控訴人は被控訴人に対し本件会員権の譲受けをもつて対抗できないものといわざるをえない。
なお本件株券および入会金預り証を対象として取戻権を行使しうべきものでないことも前記説示から推して諒されるところである。
四よつて控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却すべく、これと結論を同じくする右請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第八九条第九四条を適用して主文のとおり判決する。
(三和田大士 鹿山春男 新田誠志)